直方市は石炭産業が隆盛した当時、筑豊炭田の中にあって商工業の中心的な都市でした。
炭鉱を中心に鉄道網が形成され、遠賀川上流にある嘉飯地域、田川地域からの石炭が集積される場所となり、これにともない街が発展してきた経緯があります。
こうした背景もあって、炭鉱で使われる道具の需要が大きく、時に特注品なども多かったと聞きます。このような需要に応えるべく創設された直方鉄工協同組合は、時代の波に揉まれながらどのような発展を遂げてきたのでしょうか。
ここでは同組合のこれまでの足跡を紹介したいと思います。
組合結成の背景
福岡県直方市は、かつて「筑豊の石炭」で栄えた町として知られていました。


明治時代後期から昭和初期にかけて、この地域には数多くの炭鉱が存在し、それに伴って鉄工業も急速に発展しました。炭鉱で使用される機械や設備の需要を背景として、地元の鍛冶屋や小規模な工場が次々と創業することになりました。
しかし、個々の事業者では技術の向上や市場の拡大に限界がありました。地域の鉄工業者たちは協力して課題に取り組むべく、組織化や団結の必要性に迫られていました。
これが、直方鉄工協同組合の前身となる直方鉄工同業組合が、明治33(1900)年に結成されました。



当時の鉄工業者たちは、以下のような課題に直面していました。
- 技術の共有と向上
- 原材料の共同購入によるコスト削減
- 大口受注への対応
- 労働環境の改善
- 後継者の育成
これらの課題に対応するため、鉄工業者たちは力を合わせることとし、
誕生から現在までのあらすじ
組合の誕生
明治32年(1899年)、直方鉄工同業組合が誕生しました。
これが現在の直方鉄工協同組合の前身です。当初は、農具を製作する鍛冶屋が中心でしたが、炭鉱の発展に伴い、徐々に機械工場へと進化していきました。
戦前・戦中期の発展
大正から昭和初期にかけて、直方の鉄工業は石炭産業とともに成長を続けました。
第二次世界大戦中は、軍需産業としての役割も担い、技術力をさらに向上させました。
戦後の転換期
戦後、日本は高度経済成長期を迎えます。

1950年代後半から1960年代にかけて、エネルギー政策が「石炭から石油へ」と大きく転換し、直方の基幹産業であった石炭業が急速に衰退していきました。
この変化に対応するため、直方鉄工協同組合の企業も新たな市場開拓や技術革新を迫られました。昭和35年(1960年)頃、鉄工界の先輩たちは、この変化に対応するため、意見交換の場を作ろうと考えました。
青年会の発足、現在まで
昭和39年(1964年)9月、直方鉄工協同組合の若手組織として「直方鉄工青年会」が発足しました。彼らは新しい時代に向けて、経営の近代化や技術革新に取り組みました。
オイルショックなど幾多の困難を乗り越え、直方の鉄工業は今日まで発展を続けています。石炭産業への依存から脱却し、多様な産業に対応できる体制を整えることで、直方の鉄工業は新たな時代への挑戦を続けています。
直方鉄工青年会は20歳から45歳までの若手経営者や管理者が中心となり、新たな時代に向けて活動を続けています。
組合の構成事業者、その主な製品
直方鉄工協同組合には、多様な分野で活動する事業者が参加しています。主な製造品と事業者、そしてその具体的な製品は以下の通りです
金属製品製造業
九州鋳鉄管株式会社
・出荷製品:鋳鉄管、鋳鋼製品
・具体的な品名:水道用鋳鉄管、下水道用管

第一金属工業株式会社
・出荷製品:金属製品、金属部品
・具体的な品名:建築用金具、ボルト・ナット

株式会社パロマ 直方工場
・出荷製品:ガス機器、金属製品
・具体的な品名:ガスコンロ、ガス給湯器

輸送用機械器具製造業
松野プレス工業株式会社
・出荷製品:自動車部品、プレス製品
・具体的な品名:車体用プレス部品、エンジン部品
株式会社フタバ九州
・出荷製品:自動車部品
・具体的な品名:マフラー、排気系部品
株式会社城南九州製作所
・出荷製品:輸送用機械部品
・具体的な品名:トランスミッション部品
精密機械器具製造業
株式会社三井ハイテック
・出荷製品:精密金型、電子部品
・具体的な品名:ICリードフレーム、モーターコア

株式会社東洋プレシジョン
・出荷製品:IC用精密金型
・具体的な品名:半導体パッケージ金型
株式会社直方精機
・出荷製品:精密機械、金型
・具体的な品名:プラスチック成形金型
熱処理業
第一高周波工業株式会社
・出荷製品:金属熱処理加工
・具体的な品名:表面硬化処理、焼入れ処理
株式会社サンエム精工
・出荷製品:金属熱処理加工
・具体的な品名:高周波焼入れ、浸炭処理
株式会社林フォージング
・出荷製品:鍛造製品、リング鍛造
・具体的な品名:ベアリングリング、ギアブランク
これらの企業は、それぞれの専門分野で高品質な製品を提供し、地域経済の発展に貢献しています。

おわりに(まとめにかえて)
直方鉄工協同組合の歴史は、日本の産業発展の縮図とも言えるでしょう。石炭産業の盛衰とともに歩み、エネルギー革命という大きな変化に適応し、そして現在も技術革新を続けている姿は、日本のものづくりの底力を示しています。
組合の強みは、多様な専門分野を持つ企業が集まり、協力し合える点にあります。金属製品から精密機械、自動車部品まで、幅広い製品を生み出す技術力は、直方の誇りと言えるでしょう。
また、若手経営者や管理者を中心とした「直方鉄工青年会」の存在は、組合の未来に希望を与えています。彼らの新しい発想と行動力が、直方の鉄工業から新しい地方創生へとつながるかもしれません。
直方鉄工協同組合の挑戦は、地域経済の活性化だけでなく、日本のものづくり産業全体にも良い影響を与えています。技術の伝承と革新、地域との共生、そして世界に通用する製品づくり。これらを両立させながら、直方鉄工協同組合は今日も前進を続けています。
私たちは、この組合の歴史と現在の姿から多くのことを学べます。困難な時代を乗り越え、常に新しい挑戦を続ける姿勢。そして、個々の力を結集することで生まれる大きな力。これらは、ビジネスの世界だけでなく、私たちの日常生活にも活かせる貴重な教訓となるでしょう。
直方鉄工協同組合の今後の発展に、大いに期待したいと思います。そして、彼らの挑戦が日本のものづくり産業全体を牽引し、より豊かな社会の実現につながることを願っています。
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