パワースポット霊峰英彦山

英彦山、そしてその左奥鷹ノ巣山(画像は「英彦山からのたよりhttp://yama-hiko.sblo.jp/」から転載)

一昔前の炭坑隆盛によりその名を轟かせた筑豊は、自然遺産の宝庫でもある。

その代表格は、耶馬溪英彦山国定公園の一部として知られる英彦山周辺。英彦山と言えば山伏、と思い起こす人も多いだろうが、ここは国定公園としても認定される自然の宝庫。その国定公園内にある自然遺産の特徴はどんなものだろう。

筑豊の「ヤマ」その昔炭坑で生まれたボタ山を象徴し、いつしか炭坑そのものを言うようになった。同じ「ヤマ」でも緑息吹く山、それは、福岡県内でも特筆すべきものが多いこのうち、国定公園の一部として知られている英彦山周辺の自然遺産からみてみよう。

「筑豊=炭坑」という強烈なイメージに隠れ、あまり脚光を浴びることが少なかった部分に、自然遺産からアプローチしていこう。

英彦山

筑豊地方でも最も高い山と言えば英彦山。その山容は何とも異様な形で、威厳すら漂う。日本百景にも数えられる事はあまり知られていない。この日本百景には、山岳として18ヵ所の山々があり、大山(島根県)や霧島山(鹿児島県)などが含まれている。

行手を阻むように聳え立つ山塊は、場所によって断崖絶壁とでも言うべき険しいところもあり、そんな自然環境が古くから人々に畏敬の念やパワースポットとしての信仰を集めてきた。

こうした背景もあり、日本二百名山の一つとしても知られ、八海山(新潟県)、榛名山(群馬県)、金剛山(奈良県)などに並び評価をされている。

英彦山上宮

英彦山は、福岡県内でも三番目に高い標高を持つ名峰。その標高は1199.6m(南岳)を数え、霊山として太古から信仰をあつめてきた。最盛期には山麓に500を優に超える坊が軒を連ね、山伏たちが修行に励んだ日本三大修験山の一つである。その威光は、参道入り口にある銅鳥居や奉幣殿(ともに国指定重要文化財)、旧亀石坊庭園(国指定名勝)などから実感することができる。

国見ヶ岩からみた英彦山坊の眺望

英彦山の由来は定かではない部分が多いが、もともとは彦山と呼ばれ、その地名はJR日田彦山線の彦山駅などに残る。古代には、日子山とも記録があるように、太陽の子がこう降臨する山という意味があるそうだ。弘仁十年(819年)嵯峨天皇の勅により「日子」の二字を「彦」に改め、次に享保十四年(1729年)には霊元天皇の御祈願で 「英」の敬称が贈られ「英彦山」と改称された。こうした由縁が人々の信仰をあつめ、戦国、江戸時代には大名なども寄進するほどであった。先に述べた銅鳥居や奉幣殿はその象徴でもあり、現世から天上界へとゆく道の入り口にお供えしたようにも見える。

銅鳥居(かねのとりい)

奉幣殿は、山頂部にある英彦山神宮上宮に対し下宮と称され、この横から石段を登り始めると登山道へと入る。正面登山道と呼ばれるこの道は、中宮を経て上宮のある中岳を目指す。途中、のちにお話しする四王子の滝へと続く道と分岐する。幻の滝とも言われるこの四王子の滝、そのエピソードはのちの項目へとゆずる。中岳山頂からは脊振山、犬ヶ岳、由布岳といった名峰の数々を一望できる。晴れた日の壮観は、心が洗われるような神秘さに満ちており、筑豊随一のパワースポットである。

英彦山奉幣殿

奉幣殿からは正面登山道とは別に、もうひとつの登山道がある。こちらは玉屋神社を経て南岳を目指すルートである。玉屋神社は、岸壁をくり抜いた岩窟の一部から、突き出た形で構築されたユニークな構造である。この構造が修験の山、山伏たちの面影を想起させる。ここを後にし、さらに登ると鬼スギへといたり、英彦山最高峰の南岳を経て中宮へと続く

鷹ノ巣山

添田町にある英彦山は、耶馬日田英彦山国定公園に含まれている。中でも鷹の巣山は国指定天然記念物。標高979mの異様な山塊は、火山性柱状台地(ビュート)の典型。

英彦山山地の北端に位置するこの山は、3つの巨大な岩峰からなり、深い緑に囲まれている。春はツツジやシャクナゲ、秋には紅葉が訪れる人々を楽しませてくれる。国道500号線の沿線にあにある薬師林道入り口から峰入りし、鷹ノ巣山登山口から登ると一ノ岳、二ノ岳、三ノ岳と姿を現す。三ノ岳までの登山道の途中では、眺望が開けるところがあり、眼下に広がるパノラマは表現し難いほどのものである。

この鷹の巣山、実は筑豊田川の地名の由来となっている。その昔鷹の巣山の山頂に、神々しい光とともに鷹が降り立ったという伝説から、「鷹羽」という地名が生まれた。それがのちに「高羽」から「田河」、「田川」へと転じ今に至っているという。

ほぼ垂直な壁のようにそそり立つその姿は、活火山を多くもつ九州の地理的条件。鷹の巣山はその象徴として、国から認められた価値をもつ。英彦山少年自然の家付近からみる、三つの岩峰が並んだ威容は圧巻、一度は目にしたい筑豊の景勝地である。

ビュートと呼ばれる

鬼スギ

もうひとつ耶馬日田英彦山国定公園に、筑豊の自然遺産を代表するものがある。それが鬼スギ。

樹齢は約1200年以上といわれ、高さ約38m、幹周り12.4m(人の胸の高さにおける数値)をはかる。ちなみに「森の巨人たち百選」にも選ばれた。

この大木には伝承がある。それは彦山権現にこらしめられた鬼が逃げていく時、持っていた杖がこの大木になったというもの。

伝承の真偽の程は定かでないが、1200年前から奇跡的に今に残るのはまさしく自然遺産。筑豊の屋根とも言える英彦山から、長い間人々の歴史を見守り今にいたっている。

鬼スギ

深倉峡

英彦山隠れ座敷ともいわれる障子ヶ岳の西南麓の渓谷で、奇岩が林立している。

毎年11月第2日曜日には「英彦山男魂祭(ヒコサンオトコマツリ)」が開催され、紅葉の名所でもあるためシーズン中は多くの人が訪れる。

特に、男魂岩(男岩)と女岩にかかる大注連縄は圧巻である。峡谷を挟んで2つの奇岩の間に掛かる注連縄が、この深倉峡の見所。

深倉園地にある高さ13mの奇岩「男魂岩」と、渓谷越しに向かい合う女岩との間に大きな注連縄が結ばれている。対となる女岩と向かい合い、その間には川を挟んで大きなしめ縄が張られ、まるで仲むつまじい夫婦のように見えるから不思議だ。

谷の合間、標高600mのところには「姥(うば:乳母)ヶ懐(ふところ)」という慈母観音が祀られた修験窟がある。ここから湧き出る清水を飲むことで、母乳が出るようになるという伝説がある。最近になって訪れる人も多くなったため、このあたりにもトイレが整備され、キャンプを愉しめるようになった。

深倉峡(撮影:早田早智子さん『英彦山からの便り』

四王子の滝

英彦山中岳より近い場所にあるこの瀑布、冬に凍結することで知られ、知る人ぞ知る絶景スポットである。

瀑布が厳寒の中で凍結した姿は、無数のつららが連なっているような、嵐の雨がそのまま凍ったかのような、現世離れした景観を演出する。冬山登山をたのしむ人のみならず、機会があれば必ずみておきたい筑豊の絶景。生きているうちに必ず見たい自然が織りなす神秘だ。

この滝は、幻の滝とも呼ばれ、春から秋にかけては流水量が少ない。このため岸壁にはほとんど水量がなく、滝としての瀑布に親しめる機会が少ない。しかし、これが冬の時期になると、山頂周辺に降った雪の融水が岸壁をひたたれ落ち、それが厳冬の寒さによって凍りつくことで突然滝となってあらわれる。このため幻の滝と称されるのである。パワースポットの奇跡か、神のいたずらか…

四王子の滝

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