筑豊秘湯めぐり 癒しを求めて

 旧来のイメージに隠れ、意外と知られていない筑豊の魅力のひとつに温泉がある。温泉地としてのネームバリューこそメジャーとなっていないが、中には古代の発祥と言われるものもあり、目を見張るものがある。

 余談にはなるが、国内初となった世界記憶遺産の「山本作兵衛炭坑記録画」には公衆浴場の場面が描かれたものがある。過酷な肉体労働の疲れと坑内での汚れを落とすため、憩いのひと時を伝える貴重なものである。この時代に培われた人々の習慣が、今も筑豊に暮らす人々に根付いているのかもしれない。それは、筑豊地方の各市町村には必ずと言っていいほど、身近に温泉があり、普段から人々の足が絶えないことからも裏付けられる。考えすぎかもしれないが、これも炭坑時代に生まれた文化的習慣が、今も人々には欠かせないとされるのではないか。

 それはさておき、自分の目で見て、肌で感じて筑豊を楽しみに来ていただいた際は、その旅の疲れを以下で紹介する筑豊の名湯で過ごしてみるのも楽しみの一つ。

 宮若市にある脇田という地名、その由来は「涌く田」が訛ったことによるという。つまり、温泉が湧く地を示すための呼び名と考えられる。開湯は奈良時代ともいわれるが定かではない。それは大伴旅人(おおとものたびと)という貴族が、大宰府に赴任する際、この地に立ち寄り長旅の疲れを癒したとか。

 少し余談になるが、この大伴旅人という人物、奈良時代の中央政界の要人であった。かつ、九州にゆかりの深い縁があり、2度の九州へ赴任した経歴がある。その2度目の赴任先が大宰府であり、その職は大宰帥(だざいのそち)という九州における外交、防衛の最高責任者であった。大陸との外交、防衛を最重要課題とした奈良時代、それ相当な実力者を任じたことは想像に難くない。こう考えると大伴旅人という人物像が少なからず伺える。

 話を戻そう。奈良時代の政界の要人の大伴旅人が立ち寄るほど、当時から名湯として名を馳せた脇田温泉、いわば当時のVIPを”おもてなし”するだけの景勝地だったのではないだろうか。

 その後の古代、中世の記録は定かではないが、江戸時代にまとめられた「筑前国続風土記」という文書にも、脇田温泉の記述がある。この文書、現代で言えば地名辞典のようなもので、その地の名物や名勝などをまとめている。

 戦後において脇田温泉は”福岡の奥座敷”とも称され、炭坑全盛期の昭和30年代まで繁華街として賑わったという。そして今、繁華街というよりは温泉街として、静かなたたずまいの脇田温泉は、犬鳴峠の麓で深い緑に囲まれながら癒しの時を刻んでいる。犬鳴川のせせらぎと小鳥のさえずりとともに、無色透明、無臭で美肌効果の高い温泉をたのしめる。弱アルカリ性の泉質は、好き嫌いなく馴染め、根強いファンが多い。さらさら、つるつるとした湯の感触は、長い時間楽しめ、日ごろのストレスや旅の疲れを癒してくれる。

 温泉の効能は、神経痛や筋肉痛をはじめ、皮膚病、五十肩、高血圧症、冷え性などに良好と言われている。数件の温泉宿があり、泊りで楽しむこともできれば立ち寄り湯も可。かつて”福岡の奥座敷”と言われたこの温泉街は、まさしく秘湯中の穴場と言っていい。高級リゾートでは味わえないゆったりとしたくつろぎをお求めの方には最適の場所だ。

霊峰に抱かれ厄落とし 英彦山温泉

 添田町は標高1199mの霊峰英彦山を要する町。日本三大修験の一つとされ、この地の付近は古くから人々の往来が盛んで、このため歴史と文化、そして自然に恵まれた環境にある。耶馬日田英彦山国定公園の一部である添田町内には、英彦山に関連した名所、名勝が多く、一日で見て回ることは難しいほどである。こうしたことが背景にあってだろうか、英彦山の麓にはいくつかの場所で温泉がたのしめる。行楽をたのしみ、その疲れを癒すためには絶好である。

英彦山温泉しゃくなげ荘

 添田町内から国道500号線へと入り、英彦山の近くへと至る場所にあるのが「英彦山温泉しゃくなげ荘」だ。旅人たちを迎えるようにやさしく迎え入れてくる建物は、英彦山の自然に溶け込むようである。全20室の宿泊棟を備えた施設は、立ち寄り湯も可能で親しみやすい。温泉の泉質はナトリウム炭酸水素塩泉という美肌の湯。つるりとした肌触りの湯は、石鹸で撫でたような感触であり、古い角質や毛穴の汚れを取るデトックス効果があるという。女性のみならず、ストレスや日頃の疲労を癒す効果も高いため男性にも勧められる。館内にある天空のレストランでは、四季折々の郷土料理がたのしめ、ヤマメのから揚げや鯉こくといった美味にありつけるのもうれしい。(現在は休館中)

●ひこさんホテル和(なごみ)

 一方標高500mを超える位置にある「ひこさんホテル和(なごみ)」は、澄んだ空気の中に位置している。こちらも同様ナトリウム炭酸水素塩泉で、解放感にあふれる露天風呂が魅力。宿泊施設も備えた本館と別館には、和洋の客室が数種類あり家族での利用にも適している。いずれの宿泊プランもリーズナブルな料金設定となっている。英彦山の各名所を巡る、あるいは登山にとたっぷりと英彦山を堪能したい方には、2,3日の滞在にはぴったりな場所と言える。

画像引用 ひこさんホテル 和~なごみ~:https://hikosan-nagomi.com/

鷹巣高原ホテル

 もうひとつ、「鷹巣高原ホテル」という宿泊施設もある。宿泊棟を擁する施設としては最も標高の高い場所にある。最近すすき野でクローズアップされるようになった鷹巣原高原の近くにあり、このこともあり山奥にありながら予約が多いことで知られる。大中の宴会場を備え会合や会社、団体での旅行客の利用にも適しており、供出される料理は多種多彩で一人前とは言えない量と質に圧倒されるほど。残念ながらこちらは天然温泉ではないものの、高原の雄大なロケーションを眼下に眺めることができる。⇒鷹巣高原ホテル

庶民の癒し 筑豊立ち寄り湯4選

 家族連れでのお出かけや、ちょっとした山登り、名所めぐりなどの帰りがけに、気軽に立ち寄り湯を楽しめる場所としては以下の4つのスポットを活用してください。

こうの湯温泉(飯塚市)

 福岡地方と筑豊地方の境にあたる八木山峠の麓には、こうの湯温泉という地元の人々に親しまれた温泉がある。飯塚市内にある八木山周辺は、飯塚市街地より離れた場所にあり、閑静な住宅街と緑豊かな環境の中で人々を迎えてくれる。

 八木山峠は標高227m、途中の峠道は桜並木の名所として知られ、シーズンとなると家族連れを中心に見物客でにぎわう。また、峠の展望台からは飯塚市街をとおし嘉穂、穂波地域を一望することができ、遠くには英彦山の勇壮な姿を目にすることもできる。ここには「しあわせの鐘」というモニュメントもある。これは東日本大震災の復興を願ってつくられ、鉄製の小さなハートを多数つなぎとめる様は、人々の絆を深め合うようにも思える。真ん中の鐘を鳴らすと、カップルには幸せが引き寄せられるとか…夜景眺めの名所としても知られ、ちょっとしたデートスポットとも言える。

 この八木山峠を飯塚方面に下っていくと、ほどなく見えてくるのがこうの湯温泉だ。飯塚市民にとってはちょっとした憩いの場として親しまれ、日本庭園の解放感のある大浴場は人々にゆとりと癒しを与えてくれる。県内有数のラドンを含有する泉質は、動脈硬化に効能があるとされ、アトピーや神経痛、関節痛にもいいと言われる。立ち寄り湯はリピーターが多く、一定の評価がある。宿泊もリーズナブルな値段で気軽に利用できる。

画像引用 こうの湯温泉(チクスキ:https://chikuski.jp/shops/lifestyle/iizuka/hot-spa/kounoy

直方いこいの森温泉(直方市)

 福智山麓の深い緑に囲まれて、ゆったりとした時を満喫できる環境にあるのが直方いこいの森温泉。こちらは珍しい人工温泉という聞き慣れない施設。その人工温泉という謎に迫ってみよう。

 この温泉、「光明石」という天然鉱石では最もイオン化作用の高いものを使用し、人々に温泉を提供している。この光明石は岡山県の中央部にある阿部鉱山というところからのみ産出されるとあって、レアな温泉として知る人ぞ知る秘湯でもある。この光明石は、肌にやさしいミネラルたっぷりの湯を生成し、肩こり・腰痛・リウマチ・痔・冷え症・神経痛・疲労回復・産前産後の冷え症といった諸症状に効果が高い湯質を生み出す。体の芯から温められるという口コミ評価が多く、直方市民を中心に県内から多くのリピーターが集まる。近代的な造りの大浴場は解放感と清潔感を与えられ、爽快感のもとで日ごろの喧騒を忘れさせるようなリラックスを得られる。

 福智山麓には筑豊県立自然公園の一部として竜王峡、福智山ろく花公園があり、この一歩で上野焼、高取焼といった文化遺産に恵まれている。これらを堪能するには1日では物足りなく、宿泊も備わる当温泉を活用すると快適な旅になる。

画像引用 直方いこいの村 http://n-ikoinomura.co.jp/onsen/

道の駅おおとう桜街道 さくら館(大任町)

 遠賀川の支流の一つ、彦山川の中流域に位置する大任町は、山間にある田川地域のほぼ中央にある。この大任町も筑豊炭田全盛期に炭坑が地域社会の中心となっていた。このため彦山川は選炭作業で排出される汚水により、環境汚染が深刻な時期があった。こうしたことから大任町では、「一個のシジミがコップ一杯の水を浄化する」という作用に着目し、親しみ深い彦山川の環境美化に取り組んできた。これに関する条例も制定されているほど、大任町では町をあげて取り組んできた経歴がある。毎年10月にしじみ祭りも開催される一方、養殖しているシジミを活用してオリジナル商品の開発にも取り組んでいる。

 最近では道の駅を新設、桜やラベンダー、ひまわりといった花々によって、道の駅を中心に花であふれる地域へ育んでいる。敷地内には地域の特産品や美味にありつける場を設ける一方、子ども達に人気の遊具が豊富に配置された場もあり、家族連れでの来場者も目立つ。このような道の駅の一部にあるのが温泉施設さくら館である。この意味では道の駅としては隔絶した規模で、はるばる訪れる人をたのしませてくれる。

 さくら館の清潔感あふれる近代的な建物は、道の駅に立ち寄る人々を惹きつけ、一度は立ち寄ってみたいと思わせる。バリアフリーを意識した館内は、広々とした空間が広がり、訪れる人々をくつろぎの時間へといざなう。温泉は炭酸水素塩泉で、ややぬるっとした肌触りが心地いいことで評判だ。また、ここには九州では医療機関でしか体感できなかった薬石浴の嵐の湯があり、湯治、あるいは健康増進の意味でも効果的とにわかに注目されている。デトックス効果や血行改善、免疫力向上と医療面からも効果があり、全国的にも珍しい。

画像引用 おおとうぐらし https://otogurashi.com/

源じいの森温泉(赤村)

 筑豊唯一の村である赤村は、人口3,000人あまりの村で風光明媚な四季折々の景観が楽しめるところとして知られる。村びとは都市との交流を促進しており、人情豊かな田舎の人たちが迎えてくれる。その拠点的な施設として平成元年より運営しているのが、源じいの森という温泉、宿泊施設である。

 施設内には今川の畔を中心に各設備が整備され、キャンプ場やログハウス、バンガロー、これらを取り囲むように遊歩道が巡る。この一方で子ども向けの遊具に宿泊棟、そして温泉浴場などがある。桜咲く春には敷地内に植樹された桜が、咲き誇らんばかりに咲き乱れ、夏には若者や家族連れを中心にキャンプや水遊びににぎわいをみせる。

 温泉は村びとたちの憩いの場として、平日から客足が多く、土日には遠く福岡市や北九州市からの人々も珍しくない。温泉の泉質はアルカリ性の単純泉で、さらりとした湯の感触は湯上り時に爽快感を与えてくれる。同館内には郷土料理を楽しめるレストランもあり、アユ、ヤマメの塩焼きをはじめ、山菜おこわやだんご汁など赤村らしさを堪能できる。日本の原風景ともいえる赤村で、むかしならではの郷土料理と温泉で癒しの時を過ごすにはぴったりの場所だ。

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